項目 | 内容 | |
---|---|---|
事業名 | 難治性疾患実用化研究事業 | |
研究課題名 | SIADHにおける低ナトリウム血症に対する機械学習を用いた治療予測システムの開発 | |
研究代表者名 | 萩原大輔 | |
研究代表者の所属機関名 | 名古屋大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科 | |
研究対象疾患名(または疾患領域) | 下垂体性ADH分泌異常症[バソプレシン分泌過剰症(SIADH)] | |
研究のフェーズ | (治験以外の)臨床試験;エビデンス創出研究;SaMD | |
難病プラットフォームとの連携の有無 | なし | |
研究概要 | 【研究の背景・必要性】 バソプレシン(AVP)分泌過剰症(SIADH: syndrome of inappropriate secretion of anti-diuretic hormone)は,抗利尿ホルモンAVPの分泌が持続する指定難病であり希釈性低ナトリウム(Na)血症を呈する.SIADHによる低Na血症において,慢性で比較的軽度の場合には水制限や塩分負荷が施行されるが,2020年6月よりAVP受容体拮抗薬トルバプタンが使用できるようになった(Endocr J 68(1):17-29, 2021; Endocr J 70(12):1195-205, 2023).急性で高度の低Na血症は,意識障害やけいれんなど重篤な中枢神経症状を呈し,時に脳浮腫や脳ヘルニアから致死的となるため,血清Na濃度(s-Na)の早急な補正が必要となる.一方で,短時間で過度なs-Naの上昇は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の誘因となることが知られている.ODSには現時点で有効性が確立した治療法はなく,四分の一の症例で死に至り,四分の一の症例で構音障害,嚥下障害,四肢麻痺,意識障害,パーキンソニズムなどの中枢神経症状が残存する(Eur J Neurol 21(12):1443-50, 2014).したがって,低Na血症の治療においてはODSの予防が極めて重要であり,国内外のガイドラインにおいてs-Naの上昇を24時間で8-10 mEq/L,48時間で18 mEq/L以内にするように推奨されている(Am J Med 126(10):S1-42, 2013; 日内分泌会誌 99(Suppl):21-23, 2023).しかしながら,実臨床においては頻回のs-Naのモニタリングにも関わらず予測不能で急峻なs-Naの上昇を免れないことがあり,適正かつ安全なs-Naの補正プロトコルの開発が望まれている.研究開発代表者ら近年,低Na血症患者を対象として,ある時点(t)におけるs-Na,血清カリウム濃度(s-K),血清クロール濃度(s-Cl),および6時間前(t-6)からtまでの尿量と治療内容(飲水+輸液量,輸液内Na量,輸液内カリウム量)といった日常診療でリアルタイムに測定される7項目から,6時間後(t+6)のs-Na(s-Na6h)を予測する機械学習モデルを構築した(WIPO PCT/JP2023/01639[特願2022-078809];Endocr J 71(4):345-55, 2024). 【目的・ねらい】 本研究開発課題の目的は,SIADHにおける低Na血症に対する安全な治療を実現するため,低Na血症治療予測システムを実臨床で利用可能とするべく社会実装することにある.本研究開発課題にて低Na血症治療予測システムを用いた低Na血症治療に関する多施設前向き臨床試験を実施して,モデルの予測精度と汎化性能のさらなる検証を行う.また,導出企業との連携関係を構築するとともに医療機器承認を得るための臨床性能試験の項目確定を目指す. 【特色・独創性】 2015~2020年に日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(研究協力施設)の集中治療室で治療を受けた低Na血症患者(尿中Na濃度<20 mEq/Lを除く)(74例・データセット342組)から構築された本s-Na血症治療予測モデルは,s-Na6hと実測値との平均誤差1.11 mEq/L[二乗平均平方根誤差(RMSE)= 0.037,決定係数(R2)= 0.97]と良好な精度を示した.さらに,同時期に名古屋大学医学部附属病院の集中治療室で治療を受けた低Na血症患者(尿中Na濃度<20 mEq/Lを除く)(15例・データセット146組)による外部検証においても,s-Na6hと実測値との平均誤差1.62 mEq/L(RMSE = 0.054,R2 = 0.92)と高い精度を示した.尿中Na濃度<20 mEq/Lを除いた低Na血症の患者データを用いて構築された本モデルは,SIADHの特徴である「細胞外液量がほぼ正常な低Na血症」を主要なターゲットとしている. 機械学習を用いた低Na血症に関する研究として,下垂体手術後の低Na血症の発症予測に関する研究(Pituitary 23(5):543-51, 2020;Pituitary 26(2):237-49, 2023)や低Na血症を伴う入院患者のクラスター化に関する研究(Diseases 9(3):54, 2021)が挙げられるが,本研究のような低Na血症治療予測モデルに関する報告はこれまでにない. 【類似研究・競合に対する優位点・国際的に見た研究の立ち位置】 本研究のような機械学習を用いた低Na血症治療予測モデルに関する報告はこれまでにない. 【本研究課題終了時に期待される成果】 多施設前向き臨床試験によって低Na血症治療予測システムの有用性が証明される.また,PMDA対面助言を経て,医療機器承認を得るための臨床性能試験を開始できる. 【将来展望】 低ナトリウム血症治療予測システムが社会実装されることで,SIADH患者および医療者の双方にとって負担の少ない,有効かつ安全な低ナトリウム治療の実現に寄与することが期待される. | |
レジストリ情報 | ||
なし | ||
バイオレポジトリ情報 | ||
なし | ||
担当者連絡先 | ||
※メールアドレスが掲載されている場合は、「●」を「@」に置き換えてください。